暗い時代をどう生きる

 「暗い時代をどう生きる」と表題を掲げたわけですが、若い人たちにとって実はどんな時代も「暗い」んですね。「青春」という言葉があって、これは明るいイメージなんですが、正確にいえば、若い時代とは明暗裏腹なんですね。だから「暗い」といってもそれは片面でもう片面は「明るい」わけです。それが「若さ」の力で、だからみんな若さに期待するというのは、若いだけで暗い苦しい時を乗り切ることができるわけなんですね。

 そうはいっても量的には暗い苦しい時のことが多いわけでして、有名なフランスの文学者が「僕はその時二十歳だった。その時が美しいとは誰にも言わせない」という書き出しの文章を綴っていたように、若い時の大部分は暗くて苦しいんです。それでいいんで、言ってみれば成長痛なんですね。しかし、その苦しさに負けたり、先が見通せなくて無為に過ごしてしまうのはあまりにもったいないというのは老人である講演者のわたしの言い草なんです。

 もっともわたしは、若い人は自分で切り開く力があるはずだから信じて放っておきなさいというアドバイスもできるのですが、どうでしょうか。

 実は、わたしも若い時に人から助言をもらって目から鱗が落ちた思いをしたり、その時にはいいことを言われたのにその意味が分からずあとであのことを聞いていればなあと後悔したりという経験がいっぱいあるんです。

 つくづく人生というのは出会いだし、人との出会いというのは「一期一会」なんだと思うんです。ですから今回こうやってわたしとあなたがたが縁あって講演という形でわたしの話をさせていただくというのも一期一会の一環ではないかと思うわけです。それでわたしの少ない経験の中でこれは若い時に知っておけばよかったと思うことをお話したいと思うのです。それをご参考にしていただければ今回の講演をした甲斐があったと思います。